アーク溶接作業者になるには?仕事内容ややりがい、平均年収や資格の取り方を解説

この記事で分かること
- アーク溶接作業者は、電気の放電現象「アーク」を利用して金属を溶接する専門家
- アーク溶接作業者になるには「アーク溶接等の業務に係る特別教育」の修了が必要
- アーク溶接作業者は慎重さと集中力などが求められるが、手に職をつけて長く働ける仕事
※この記事は6分で読めます。
「アーク溶接作業者ってどのような仕事?」
「アーク溶接作業者の資格を取る方法を知りたい」
など、アーク溶接作業者に関して疑問を持っている方もいるでしょう。
アーク溶接作業者とは気体の放電現象の一種である「アーク」を利用した溶接技術を扱う有資格者のことです。建築や造船業、工場など、溶接をおこなう幅広い分野で活躍できる資格です。
今回はアーク溶接作業者の仕事内容や平均年収、やりがいと魅力、向いている方の特徴、資格の取得方法などを解説します。この記事を読めばアーク溶接作業者のことがよくわかり、自分が働いている姿をイメージできます。
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1.アーク溶接作業者とは?
アーク溶接作業者とは、労働安全衛生法に基づくアーク溶接特別教育の講習を受け、修了証書を受け取った者のことです。
アーク溶接の作業が不適切だと「作業者の感電」「火災・爆発」といった事故につながるため、それらを未然に防ぐ目的で特別教育が義務付けられています。
溶接とは、別々の物質を溶かして結合させる技法を指します。「アーク」は気体の放電現象の一種で、5,000度〜20,000度に達する高温かつ強い光を発することが特徴です。鉄の溶融温度は1,500度〜2,800度であり、アークは鉄と鉄を接合するのに十分な温度となります。
アークの特性を使って鉄同士を溶接するのが「アーク溶接」です。ただし、放電現象を利用して溶接する関係上、溶接できる対象は「電気伝導体」に限られます。
以下の記事では、溶接工について詳しく解説しています。
1-1.アーク溶接作業者の需要
アーク溶接は、生産現場から建築現場まで、金属の加工が必要な業界で幅広く利用されています。さまざまな材質や板厚に対応できるため、今後も多くの業界で利用され続けるでしょう。
そのため一定のスキルを身につけたアーク溶接作業者の需要は高く、幅広い就職先の選択肢があります。
厚生労働省のデータによると、令和5年度の溶接工の有効求人倍率は全国で2.94倍に達しています。アーク溶接作業者1人に対して約3つの求人があることを意味しており、需要の高さがわかるでしょう。
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参照:厚生労働省「職業情報サイトjobtag 溶接工」
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/255
1-2.アーク溶接作業者が活躍できる現場
アーク溶接は5,000度〜20,000度の温度で溶接が可能なため、さまざまな金属を扱えます。金属加工を扱う多くの企業で需要があり、以下のような業界での勤務が可能です。
- 造船業
- 建築・建設
- 自動車メーカー
- 鉄鋼業・製造業など
特に造船業ではアーク溶接がよく用いられており、船体が「銅船」という種類の場合はほとんどがアーク溶接によって作られます。
土木作業や工務店など建設業界も同様で、気密性・水密性に優れたアーク溶接は需要が高い技術です。自動車メーカーや修理工場でも、自動車の製造過程で部品を組み合わせるときにアーク溶接作業が利用されます。
その他、鉄鋼などの加工を扱っている鉄鋼業や製造業・加工業など、幅広い場面で活躍できます。
2.アーク溶接作業者の仕事内容と平均年収
アーク溶接作業者の主な仕事内容は以下のとおりです。
- 金属製品の溶接部品などの溶接
- 半自動溶接作業
- 溶断など
勤務地は「工場」「建設・工事現場」に大別でき、どちらに勤務するかで作業内容は変わります。工場であればアクセサリーや時計などの精密機械、家電、自動車の部品などの金属製品の溶接が主な仕事です。
建設現場であれば、配管や建築材料、船舶など、現場に応じた金属製品の加工が必要です。
最近では、溶接ロボットなどを使った「半自動溶接作業」によって効率化が図られる場合もあります。例えば半自動溶接機を使う場合、溶接材料のワイヤーが自動的に供給され、溶接作業は溶接トーチ(溶接ガン)を使って手動でおこないます。
また2つ以上の部材を1つに溶接する他、アーク溶接を利用して1つの部材を2つ以上に切断する「溶断」も仕事内容です。
アーク溶接作業者の平均年収は、賃金構造基本統計調査の金属溶接・溶断従事者(10人以上の企業規模の場合)のデータを見ると、約325万円(※1)でした。
日本の平均給与は460万円(※2)のため、日本の平均給与と比較すると金属溶接・溶断従事者の平均年収はやや低い水準にあるとわかります。
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(※1)参照:e-Stat 政府統計の総合窓口「賃金構造基本統計調査 / 令和5年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&stat_infid=000040163741
※所定内給与額をもとに年収を算出
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(※2)参照:国税庁「令和5年分民間給与実態統計調査」
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan/gaiyou/2023.htm
3.アーク溶接作業者のやりがいと魅力
アーク溶接作業者のやりがいと魅力は、主に以下の4つです。
- 資格手当を受け取れる
- 専門性を高められる
- さまざまな現場で重宝される
- ものづくりに関われる
それぞれ詳しく解説します。
3-1.資格手当を受け取れる
アーク溶接に関する資格を取得すると、会社によっては資格手当が支給されます。資格取得に向けて努力し、成果が手当という形で報われるのはやりがいにもつながるでしょう。
また資格取得により専門性が高まると、より難易度の高い溶接作業を任されるようになるため、キャリアアップのチャンスも広がります。
3-2.専門性を高められる
アーク溶接作業者は技術を磨けばより専門性を高められます。アーク溶接は溶接個所や使用する材料など、さまざまな条件に応じて高度な技術が要求される専門職です。
溶接部の品質はアーク溶接作業者の技量に左右されるため、経験を積んで専門性を高める必要があります。またアーク溶接の技術は、単に溶接だけでなく材料の知識も求められます。
専門性を高める過程で、ものづくりに関する幅広い知識を得られるのも魅力です。
3-3.さまざまな現場で重宝される
アーク溶接の技術は、建築や造船業、製造業などさまざまな分野で必要とされています。そのため優れた技術を持つアーク溶接作業者は、景気動向に左右されにくく、安定して仕事を得られるでしょう。
またアーク溶接は、金属加工を必要とするあらゆる業界で活用されている汎用性の高い技術です。一つの業界で仕事が減少しても、他の業界でアーク溶接作業者の需要があればスムーズに仕事を見つけられます。
3-4.ものづくりに関われる
アーク溶接作業者は、日本が世界に誇るものづくりの現場の中心で、重要な役割を担っています。自分の手がけた溶接が高品質な製品の一部になり、世の中で活躍するのは喜びも大きいでしょう。
ものづくりの現場で自分の技術を活かし、高品質な製品を世の中に送り出すのはアーク溶接作業者のやりがい・誇りでもあります。日本のものづくりを支える役割を担っているという自覚が、仕事へのモチベーションにもつながるでしょう。
4.アーク溶接作業者のきつさと大変さ
アーク溶接作業者は多くの現場で求められるやりがいのある仕事ですが、以下のようなきつさと大変さもあります。
- ケガや事故のリスクがある
- 見習い期間の給料が安い
- 徹底した体調管理が必要
それぞれ詳しく解説します。
4-1.ケガや事故のリスクがある
アーク溶接作業は強烈な光や熱を利用するため、作業内容を誤ると事故のリスクがあります。例えば溶接棒に触れた際の感電、可燃物への引火による火災や爆発などです。
実際に以下のような事故が発生しています。
- 猛暑の日に工場内で作業中、軍手が汗で濡れた状態での作業による感電(※1)
- 雨天での溶接作業中に、材料を仮抑えしていた同僚が感電(※2)
- 焼酎の原酒タンクのアーク溶接中、アルコール蒸気に着火し爆発(※3)
上記のような事故を防ぐには、自動電撃防止装置を設置する、濡れた軍手や作業服で作業をおこなわないなど、適切な対策が不可欠です。アーク溶接作業者自身が事故のリスクを十分に認識し、細心の注意を払って作業に臨む必要があります。
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参照:厚生労働省「職場のあんぜんサイト 労働災害事例」
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/sai_det.aspx?joho_no=782
(※1)
4-2.見習い期間の給料が安い
アーク溶接作業者は一人前になるまである程度時間がかかるため、見習い期間の給料が安い傾向にあります。
しかし経験を積み重ねるごとに、徐々に給料は上昇します。厚生労働省のデータによると、時給換算による基準値は1,154円ですが、10年の経験を積むと1,696円まで上昇しています。
アーク溶接のスキルを磨き続け一人前の職人として認められれば、収入面アップが望めるでしょう。
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参照:厚生労働省「賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001255945.pdf
4-3.徹底した体調管理が必要
アーク溶接作業者は、徹底した体調管理が必要です。溶接作業は高温の熱が発生する環境下でおこなわれるため、常に厳しい条件下で働かなければなりません。
特に真夏は外気温が高いため熱中症のリスクが高まり、体調を崩しやすくなります。
厳しい労働環境に耐えていくには、日頃からの自己管理が大切です。十分な睡眠時間の確保や、バランスの取れた食事摂取などが求められます。
また、暑さ対策としてこまめな水分補給を心がけ、少しでも体調に異変を感じたら無理せず休みましょう。
5.アーク溶接作業者に向いている方の特徴
アーク溶接作業者に向いている方の特徴は以下の4つです。
- 慎重さと集中力がある
- 細かい作業が得意
- 立ち仕事や体を動かす仕事が好き
- 手に職をつけて長く働きたい
それぞれ詳しく解説します。
5-1.慎重さと集中力がある
アーク溶接作業は、慎重さと集中力が求められます。小さな不注意が大きな事故につながるため、常に細心の注意を払い、手順を踏まえて安全確認を怠らずに作業を進める必要があるからです。
また、適切なタイミングで溶接棒の操作をすることが求められるため、周りの雑音に惑わされることなく長時間正確な動作を続ける必要があり、高い集中力が必要です。
慎重さと集中力に自信がある方は、アーク溶接作業に向いている可能性が高いでしょう。
5-2.細かい作業が得意
アーク溶接作業は溶接箇所に溶接棒を正確に当て、適切な速度で動かすなど、繊細な手作業が求められます。溶接部の仕上げでは手先の器用さも必要です。
手先が器用で集中力を持続させながら丁寧に作業を進められる方なら、アーク溶接の技術を着実に身につけられるでしょう。
5-3.立ち仕事や体を動かす仕事が好き
アーク溶接作業は、座り仕事よりも立ち仕事や体を動かす仕事が好きな方に向いています。
溶接作業は長時間立ったままの姿勢を維持したり、中腰で作業したりすることが多いためです。体力に自信があり立ち仕事を好む方にとって、アーク溶接は魅力的な職種でしょう。
しかし立ち仕事が苦手な方でも、体を慣らしていくと徐々に対応できます。無理のない範囲で体力づくりに取り組むと良いでしょう。
5-4.手に職をつけて長く働きたい
アーク溶接作業は、手に職をつけて長く働きたい方に向いています。溶接技術は短期間では取得できません。溶接のスキルを磨き、専門性を高めていけば、どのような現場でも活躍できる人材へと成長します。
自分の技術を武器に長く安定した仕事に就きたいと考える方にとって、アーク溶接は理想的な職種でしょう。
6.アーク溶接作業者になるには?
アーク溶接作業者を目指すなら、大前提として「アーク溶接等の業務に係る特別教育」を修了する必要があります。
具体的な特別教育の内容を把握し、受講の準備を進めていきましょう。
6-1.アーク溶接等の業務に係る特別教育を受ける
アーク溶接作業者になるには、「アーク溶接等の業務に係る特別教育」を修了する必要があります。特別教育は労働安全衛生法に基づいて実施されるもので、アーク溶接の作業に必要な知識と技能の習得を目的としています。
特別教育を受講するための要件は、18歳以上であることだけです。性別や学歴、職歴の有無は問わず、アーク溶接に興味がある方なら誰でも受講できます。
講習は商工会議所や公的機関、一般企業などで実施されています。費用はテキスト代と消費税を含めて、9,000円から2万5,000円程度が一般的です。
特別教育の主な実施内容は、以下が挙げられます。
学科 | |
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アーク溶接などに関する知識 | 1時間 |
アーク溶接装置に関する基礎知識 | 3時間 |
アーク溶接などの作業方法に関する基礎知識 | 6時間 |
関係法令 | 1時間 |
実技 | |
アーク溶接装置の取扱いおよびアーク溶接などの作業の方法 | 10時間 |
アーク溶接等特別教育の修了は、アーク溶接作業者になるための必須条件です。受講すればアーク溶接の現場で働くための基礎的なスキルを身につけられます。
6-2.難易度・合格率
「アーク溶接等の業務に係る特別教育」の難易度は、比較的低いといえます。
特別教育は試験ではなく講習の形式でおこなわれるため、所定の技能講習を受けた受講者であれば基本的に資格が与えられるからです。つまり最後まで講習を受けられれば、合格率は100%と考えて良いでしょう。
ただし講習を最後まで受けるためには、体調管理が求められます。特別教育は2日間の学科講習と1日間の実技講習で構成されています。集中力を切らさずに講義を受けるためにも、体調管理は欠かせません。
7.アーク溶接作業者とガス溶接技能者はどちらを取得するべき?
アーク溶接作業者とガス溶接技能者は、可能であれば両方の取得が望ましいです。どちらか一方だけでは、現場で求められる溶接作業に対応できない場合があるからです。
またアーク溶接とガス溶接では、溶接の原理や方法が異なるため、それぞれの資格で学ぶ知識と技能は異なります。
アーク溶接はアーク放電を利用して金属を溶接する方法です。一方ガス溶接は、可燃性ガスと酸素の燃焼によって発生する熱を利用して金属を溶接します。どちらを使うかは、溶接対象や現場の状況によって異なります。
どちらか1つの取得を考えている方は、自分の業務内容や将来のキャリアプランに合わせて優先順位を決めると良いでしょう。
8.まとめ
アーク溶接作業者は、電気の放電現象「アーク」を利用して金属を溶接する専門家です。
アーク溶接作業者になるには、「アーク溶接等の業務に係る特別教育」を修了する必要がありますが、最後まで講習を受ければ合格できるのでハードルは高くありません。
アーク溶接には危険がともなうため、慎重さと集中力、体調管理が求められます。一方で手に職をつけて長く働けるやりがいのある仕事です。
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