航空整備士とは?仕事内容やなり方、やりがいや大変さを解説
※この記事は6分30秒で読めます。
「航空整備士ってどのような仕事?」
「航空整備士で働くやりがいが知りたい」
など、航空整備士に関して疑問を持っている方もいるでしょう。
航空整備士は、飛行機やヘリコプターなどを整備するスペシャリストであり、世界中のフライトの安全を守る仕事です。
今回は、航空整備士の概要、仕事内容、向いている方の特徴、大変さなどを解説します。この記事を読めば、航空整備士のことがよくわかり、就職するまでの流れがイメージできるようになります。
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1.航空整備士とは?
航空整備士は、飛行機やヘリコプターを構成する機体、エンジン、その他装備品などが強度・精度を保てるように点検・保守をする作業をおこなうスペシャリストのことです。
航空会社が作成したチェックリストをもとに、あらゆる部品が正常に機能するかを点検し、必要があれば保守までおこないます。
空を飛ぶ航空機に万が一のトラブルがあると命に関わる危険に発展するため、航空整備士の責任は重大です。航空整備士として航空機の整備に携わるには、国家試験や企業の独自試験に合格する必要があります。
就職先は、航空会社の整備部門をはじめ、航空機を使用する企業や警察、消防庁など多種多様です。
航空機の整備の重要性については、スタジオジブリの映画『紅の豚』の一コマでも確認できます。
「飛行艇乗りの一番大事なものは、金でも女でもない。名誉だって!」
主人公ポルコ・ロッソを支える女の子の整備士フィオの名言です。この作品で、航空整備士は飛行機にとって操縦士と同じくらい欠かせない存在として描かれています。
実際、世界中を飛び回る飛行機が時間どおりにフライトできるのは、飛行機整備士のおかげでもあります。その仕事は髪の毛より細い精度が求められるものであり、ミスは許されません。
この記事では、航空整備士の仕事内容やなり方や、JALエンジニアリング「トップマイスター」の杉本好夫さんの職人魂をご紹介します。
2.航空整備士の仕事内容
航空整備士の代表的な仕事としては、以下の2つがあります。
- ライン整備
- ドック整備
それぞれの整備でおこなわれる仕事内容について詳しく見ていきましょう。
2-1.ライン整備
ライン整備は、航空機が定刻どおりに安全に運用できるように、到着した航空機の整備をおこなう仕事です。
所定の手順に従って、エンジンや機体外部の状況、車輪などを点検するほか、コックピット内で計器のチェックもおこないます。異常が発見されれば修理や部品の交換をするのも業務の1つです。
その日の状況に応じて1人で作業することもあれば複数人で作業することもありますが、フライト時刻を厳守するため、限られた時間で作業をする点は変わりません。
2-2.ドック整備
ドック整備は、格納庫にある航空機の整備をおこなう仕事です。
エンジンを始めとした大きな部品の交換や改修が主な仕事であり、決められた工期で仕事を完遂できるよう、チームワークを発揮して仕事をおこないます。
国内外に出張して整備や不具合の修復をすることもあるほか、新しいシミュレータの導入や改修の企画などの業務を担当することもあります。
3.航空整備士のやりがい
航空整備士として働くことのやりがいには、主に以下の3点が挙げられます。
- 航空機に触れられる
- 航空機の安全を守れる
- チームで一体感を味わえる
3-1.航空機に触れられる
「子どもの頃から飛行機やヘリコプターが好きで、それらに携わる仕事がしたい」 このような想いで航空業界を志す方も多いはずです。
毎日のように飛行機やヘリコプターに触れ、点検や整備に明け暮れる航空整備士の仕事は、航空機好きな方には大きなやりがいや刺激につながるでしょう。
3-2.航空機の安全を守れる
航空機は、空を飛ぶという特性上、バスや電車のように不具合があっても簡単に緊急停車することはできません。空のトラブルは搭乗者の命に直結するものです。
飛行機の部品の安全を点検・整備する航空整備士の仕事には、乗客やパイロットの命を守るという重要な使命があります。
責任の重さはプレッシャーにもつながりますが、だからこそ誇りを持てる、やりがいに満ちた仕事であるといえるでしょう。
3-3.チームで一体感を味わえる
ドック整備などでは1人でおこなう仕事もありますが、航空整備士の仕事はチームワークを発揮することが基本です。
ライン整備でもドック整備でも、定められた時間に間に合うように手分けして作業を進めることになります。定刻までに整備が終わったときには、チーム全体で達成感や一体感を得ることができます。
1人でコツコツ進める仕事よりもチームみんなで大きな仕事を進めることが好きな方にとって、航空整備士の仕事は大きなやりがいを感じられるでしょう。
4.航空整備士の大変さ
航空整備士はやりがいに満ちた仕事ではありますが、以下のような大変さもあります。
- ミスは絶対に許されない神技整備士の世界
- 「教科書の勉強では歯が立たない」職人の腕と経験が必要
4-1.ミスは絶対に許されない神技整備士の世界
航空整備士の仕事でミスが起こると上空でのエンジントラブルなどにつながり、最悪の場合は多くの乗客やパイロットの命が危険にさらされます。
数ある整備士の仕事のなかでも、航空整備士は絶対にミスが許されない厳しさがある世界です。
ここで、JALエンジニアリングでトップマイスターの称号を持つ杉本好男さんの逸話をご紹介しましょう。
JALエンジニアリングには約2,800人の飛行機整備士がいます。その頂点に立つ唯一の存在が、「トップマイスター」である杉本好夫さんです。杉本さんは、エンジンの修理をおこなう整備士チームに所属しています。
エンジン修理に必要なのは、1ミクロン(0.001mm)単位の精度で修理できる高度な技術です。さらに、フライトスケジュールに合わせなくてはならないため、限られた時間内で精密で正確な仕事が求められます。
時間に追われて整備ミスをすれば、乗客の命が危うくなる大事故につながりかねないため、非常に重い責任を背負っているのです。
杉本さんの仕事は、修理を完璧にこなすだけでは終わりません。依頼されていないところまで徹底的にチェックし、修理や整備が必要な場所がないかを確認します。
この徹底した仕事ぶりは、杉本さんの信念である「作業者じゃなく、整備士になれ」から生まれるものです。
「言われた仕事だけではなく、一歩進んで完璧だということをやらないとね」と、杉本さんは話します。
4-2.「教科書の勉強では歯が立たない」職人の腕と経験が必要
航空整備士は、国家資格の取得や現場での作業を通じて作業のマニュアルを頭に叩き込み、仕事をすることになります。
しかし、ときに教科書どおりのマニュアルに沿った作業では太刀打ちできないトラブルが発生するのが、航空整備士の大変なところです。
トップマイスター杉本さんの修理チームは、ほかのチームから「最後の砦」と呼ばれています。それは、どのような難題でも解決してくれるという、絶対の信頼があるからです。
ある日、修理チームへ特殊な整備の相談が持ち込まれました。エンジンの一部にあるボルトが、ネジ山が折れて穴に先端が残ったまま取り出せなくなってしまったというものです。
穴に残ったボルトの先端は、ひとつ間違えばエンジンの中に落ちてしまう危険な場所にあります。ボルトを落としてしまえば、エンジン自体の交換をしなくてはなりません。
そうなれば、飛行機のスケジュールに大幅な遅れが発生し、何千人に影響が出る可能性もあります。決して失敗が許されない作業です。工具を握る杉本さんの手にも汗がにじんだことでしょう。
飛行機の出発時刻を横目に、ネジ穴に残ったボルトとの過酷な戦い。慌てず、根気強く、折れたボルトを引き出します。焦りは厳禁ですが、時間は残りわずかしかありません。何千人もの人が待っています。
普通の方なら、想像するだけで心拍数が上がるような場面です。「無事にボルトを取り除けたときは、とても達成感がありました」と杉本さんは振り返っています。
乗客の知らない場所で、最後の砦として戦う修理チームの仕事は、息の詰まるような緊張の連続です。
また、教科書に解決方法が載っているわけでもありません。現場は、常に見たこともないような難題にあふれています。そんな整備場で、今日も杉本さんはトップマイスターとして修理をおこなっているのです。
杉本さんの難題を乗り切る力は、現状に満足せず妥協を許さず、向上心をもって目の前の仕事に向かう信念から生まれています。
杉本さんは定年を迎えているのですが、今も現場で次の敏腕整備士を育てています。トップマイスターから技と信念を引き継いだ整備士たちは、これからも最後の砦を守っていくことでしょう。
5.航空整備士になるには?
航空整備士になる方法は、最初に、航空整備の専門学校か、大学の工学部に進学して航空整備の知識・技術を身につけ、国家資格を取得する方法です。
資格取得後には、航空会社の航空整備会社に就職する方や、飛行機やヘリコプターを持っているメディア(テレビ局や新聞社)や、消防や警察機関で働く方もいるようです。
ここからは、航空整備士になるための流れについて、代表的なケースを見ていきましょう。
5-1.航空整備の専門学校または大学の工学部に進学
航空整備士として就職するには、理工科系の大学や高等専門学校、航空整備系の専門学校を卒業して、航空会社や整備会社に就職するのが一般的な流れです。
航空整備士に関係する国家資格を取得していないまま卒業しても航空会社や整備会社への就職は難しいため、在学中に二等航空整備士を取得したり、JALやANAに就職して一等航空整備士を取得したりする道を目指すことになります。
専門学校のなかには日本の大手航空会社ANAグループ・JALグループと提携を結んでいるところもあり、このような学校で資格を取得することが航空整備士になるための近道となるでしょう。
5-2.航空整備士の国家資格を取得
航空整備士の仕事をするためには、国家資格を取得することが必要です。
航空整備士には、二等航空整備士、一等航空整備士、一等航空運航整備士、二等航空運航整備士といった種類があります。
5-2-1.二等航空整備士
二等航空整備士は、小型~中型の航空機の整備に携われる資格です。
19歳以上かつ整備経験を3年以上積んでいることが条件であり、二等航空整備士の資格を取得すれば、二等航空運航整備士の仕事もおこなうことができます。
航空局認定の整備訓練課程を修了すれば実務経験が1年に短縮されるため、大学や専門学校に在学中に取得することも可能です。
航空会社などの採用試験では有資格者の採用が中心になることから、実質的には入社前の必須資格といえます。
5-2-2.一等航空整備士
大型機を含めた航空機の整備全般を担当できる資格で、航空整備士の最上位資格です。取得要件として20歳以上かつ航空機の整備経験を4年以上積んでいることが求められます。
一等航空整備士の資格を取得すれば、一等航空運航整備士の仕事もおこなうことができます。
4年の実務経験が求められることから、大学や専門学校在学中に取得はできず、整備会社や航空会社に就職したあとに取得を目指すことになります。
5-2-3.一等航空運航整備士
大型航空機の整備のうち、ライン整備など比較的軽い整備に携われる資格です。18歳以上かつ2年以上の実務経験が必要になります。
5-2-4.二等航空運航整備士
小型~中型の航空機の整備のうち、ライン整備など比較的軽い整備に携われる資格です。18歳以上かつ2年以上の整備経験が求められます。
5-3.採用試験を受験
大学や専門学校の卒業までに航空会社や整備会社、警察、消防などの採用試験を受験し合格すれば、航空整備士としての道が開けます。
採用試験の内容はどの企業・組織を受験するかによっても異なるので、まずは各企業・組織の公式サイトをご確認ください。
6.未経験からでも航空整備士になれる?
航空整備士になるには、前述したとおり、高校卒業後に航空専門学校などに入学する、在学中に二等航空整備士、二等航空運航整備士などの資格を取得する、整備会社に就職するといった流れが一般的です。
専門学校や大学の工学部に入る時点では、未経験でも問題ありません。
しかし、実際に航空整備士として整備会社などに入社するには、在学中に今回紹介したような国家資格を取得する必要があります。そのような理由から、整備士のなかでも比較的難易度が高いといえるでしょう。
航空整備士を志す方は、少しでも早く専門学校などの情報を探して、将来的に航空整備士として働くまでの流れをイメージすることから始めましょう。
7.まとめ
航空整備士の仕事は、航空機の安全な運航、ひいては人の命に直結する重要な仕事です。
責任の大きな仕事ではありますが、人の命と移動を支える、航空会社の定時運航のために活躍できるなど、ほかの仕事にはない大きなやりがいが得られる仕事でもあります。
航空整備士になるには、国家資格取得や実務経験が必要なので、今からなるのは難しい場合もあるかもしれません。そのような方には自動車整備士などがおすすめできます。自動車整備士については、以下から確認できます。
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